口上
今から11年前の1960年に私は始めてインクのデッサンをこころみ、発表したことがあります。しかしここに見ていただくのは、それとはまったく別種のもので、発想も手段も異にしています。焦がした作品は1962年に突発的に気紛れに始めた一連の未発表のものの一部です。黒い紙にモーターで描いた円のデッサンは1963年に着想し、時折り友人への贈物としてこころみていたものです。また、いわゆるデカルコマニーの作品は1962年にミニアチュールの連作として発表したことがあり、手法そのものは周知の通り1935年頃、シュルレアリストの画家オスカル・ドミンゲスが実験として発表したもので、私も当時、この「誰にも出来る」方法をこころみたことがあり、むしろ今頃こんな「古臭くなった」手法に執着しているのは世界で私一人位いのものだろうと自負している始末です。
私は画家としての習練と技術を身につけたことがなく、不幸にして文字や言語に執してきた人間です。
たまたまこれらの作品はすべて物理的現象に乗じて、それにすこしばかり手を藉したにすぎないものばかりです。見る人がそこにどのような幻や像を眺めようと、すべては物理や化学のなせるわざであり、私は一個の介在者であるにすぎません。ゆめゆめ「幻想的」などという「芸術」に結びつけないでいただきたいものです。さて、では私はどこにいるのでしょう?(原文ママ)
1971年11月1日 新宿「セバスチャン」にて
瀧口修造
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